【ペリオ大学】歯ぐきが下がりにNO! と言える歯の磨き方
こんにちは。歯科医師の松浦直美です。
「ペリオ」とは、歯科用語で「歯周病」という意味です。歯周病というのは、昔でいう「しそうのうろう」。「歯」そのものではなく、歯を支えている骨や歯ぐき(歯周組織)が炎症によってダメージを受ける状態で、30代以降の80%が何らかの歯肉の病気に罹患している「国民病」と言われています。
このブログでは、そんな歯を支えてくれている縁の下の力持ち、歯周組織に関する話題を、「ペリオ大学」と名付けて、歯ぐきに伴う病気や症状について、さまざまなお話をしてこうと思います。
1回めのペリオ大学では、久しぶりに歯科検診を受けよう!と思った方の受診のきっかけとして意外に多い「歯ぐき下がり」について、その主な原因と対策の概要をお話しました。
2回めの今回は、その歯ぐき下がりを自分で予防するための積極ケアについて、お話します。
Contents
歯ぐき下がりとは
復習しましょう。歯ぐき下がりとは、その名のとおり、歯ぐきが下がって歯の根元が出てきてしまう症状。歯ぐきが下がると、老けた印象を与えてしまうほか、歯がしみたり、物が挟まったり、もともと柔らかい歯の根元部分が虫歯になったりと、残念なことだらけ。
そのくせ、いったん歯ぐきが下がってしまうと、元に戻すことはとても難しい。状況が許せば、骨の再生医療や、上あごの歯ぐきを切り取って露出した根元を覆おう手術で回復することは可能ですが、適応は限られるため、望む方すべてがその恩恵を受けられるわけではありません。
やはり、歯ぐきは下がらないようにケアすることが、何より大切なのです。
私の歯ぐき、下がっている?簡単な診断方法
歯ぐき下がりは、予防が何より大切とお話しました。つまり、明らかに「私の歯ぐき、下がってきた感じがする。」「歯が長くなってきた感じがする」と自分でも分かるようになる頃には、正直やや手遅れのことが多い、ということです。歯ぐきが下がりだす前に、心配な兆候をチェックしておきましょう。
1。歯磨きをすると、歯がちくっとしみる。
虫歯でもこのような痛みが出ることはありますが、歯磨きの時のちくっ、ずきっ、とした痛みは、歯の根元が露出してきたことによる知覚過敏であることが多いです。歯ぐきが下がってくる予兆でもあります。
2。せっかちな方で、歯磨きを効率よく行おうと硬い歯ブラシをつかってガシガシ磨いている。
忙しくて歯磨きを短時間で終わらせたい方、または美意識が強くホワイトニング効果の高い研磨剤の入っている歯磨き粉で強く磨いている方などは、知らず知らずのうちにブラッシング圧が強くなってしまい、歯ぐきが下がってくる方がいます。
3。歯を磨くと歯ぐきから血がでる。
「歯ぐきからの出血」は、私たち歯科医師や歯科衛生士が初診時や歯科メインテナンスの時にも必ずチェックしている重要項目です。なぜなら、出血は「歯肉炎」や「歯周病」があるという分かりやすい1番の指標であり、早期であれば歯磨きの仕方を変えるだけで、治ることが多いです。歯磨きで歯ぐきから血が出る方は、ブラッシングの仕方を変えてみたり、わからない場合は歯科医院で相談しましょう。
4。舌で歯を触ると、ざらざらしていたり、ぬめぬめしている
「出血」は歯周病を見分ける良い指標ですが、そもそも歯磨きがあまり得意でない方は、歯ブラシを狙ったところにうまく当てられないので、歯肉に炎症があっても出血しないことがあります。そのような方は、バイオフィルム(細菌のかたまり)や歯石が歯に溜まってきますので、舌で歯を触るとざらざらと感じます。
4。朝起きると、顎が疲れていたり、歯ぎしりがあるといわれる。
歯ぎしりや食いしばり癖のある方は、歯の根元に強い力がかかり、根元が削れて歯ぐきも下がることがあります。しかし、これらによる歯ぐきの下がりは、他の原因(上記の歯周病や、圧の強いブラッシング、または歯を支えている骨と歯の生まれつきの位置)と合わさることで、間接的な原因になることが多いので、まずは上の4つを先に確認することが重要です。
上記の兆候がみられた方におすすめしたいブラッシング法
多くの歯科医院や、書籍などで勧められている「バス法」に注意
歯ブラシを歯と歯の境目を狙って斜め45度にあてて、歯ブラシを小刻みに動かす、という方法です。少し難しいのですが、歯ブラシを斜め45度に当てる、というところがポイントで、汚れの溜まりやすい歯と歯ぐきの境目の溝に毛先を当てることができるので、虫歯や歯周病予防には良い方法とされています。しかし、このバス法、上記の兆候がみられた方にはあまり向きません。特に、間違ったやり方をすると逆に歯ぐき下がりを助長しますので、注意が必要です。
歯ブラシの硬さや、毛先の性状を確認する
歯ブラシは、毛が硬い方が汚れが取れるような気がしていませんか?メーカーによって硬さの基準は違うのですが、「普通」または「柔らかめ」を使うようにしましょう。また、毛先がとても細かくなっている歯ブラシも最近多いですが、この毛先を強い圧で歯と歯ぐきの境目の溝に押し込むと、歯ぐきの薄い方などはあっというまに歯ぐきが下がってきます。以前のメインテナンスの記事でも書きましたが、歯と歯ぐきの境目の溝(歯周ポケット)の汚れ落としは、歯科衛生士などのプロに任せることが大切で、ご自分でやっきになって落とす部分ではありません。歯ぐきから上の歯の部分を、しっかりと磨くようにしましょう。
普段磨いて欲しい「歯ぐきの上の部分」、歯科医院でみてもらって欲しい「歯ぐきの下の部分」のお話を書いた記事はこちら↓
毛先を当てる角度を変える
先ほどのバス法は、歯と歯ぐきの境目に45度の角度で歯ブラシを当てる方法です。適度な歯ブラシの硬さとブラッシング圧でできる方であれば問題ありませんが、なかなかそれが分からないのが人の常。であれば、上記の「歯ぐき下がりの兆候」がある方は、バス法は忘れて、毛先を歯と歯ぐきの境目に真っ直ぐに、当ててみましょう。さらに心配な方は、毛先をバス法とは逆の斜め45度に当てます。「それでは、歯肉溝(歯周ポケット)の汚れが取れないじゃないか」と思った方。何度でも言います。歯周ポケットの中の汚れを取るのは、プロに任せましょう。
まとめ
歯ぐきが下がる原因は様々ありますが、最も多いのが「歯周病」と「間違った歯磨き方法」。そしてこの二つは、十分にご自分でも「予防」や「改善」が可能な症状でもあります。歯ぐきが下がってくる前に。少し下がった気がしている方も。ご自分のセルフケアを、一度見直してみましょう。10年後の口元が、変わってくること間違いなしです。