「行ってきます!」 〜第103回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜
歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
ルール1 必ず毎月、どちらかが書く
ルール2 内容は、歯科治療以外のこととする(時々ルール違反あり)
第103回 「行ってきます!」(MDCニュースレター2023年3月号より)
2月半ばの週末、末っ子の通う高校で「雪上運動会」が開催されるということで、函館を訪ねた。晴れており、あまり寒い思いをすることなく観戦できた。とは言え真冬の函館、一けた台の気温のなか上半身裸で競技に興じる生徒もおり、若者のエネルギーを見せつけられた。末っ子は、あまり先頭に立って何かをやるというタイプではないが、ちょっと斜に構えつつも、クラスメイトと元気に参加しており安心した。
自宅生以外は寮に入るのが原則の高校。寮の部屋は個室ではない。特に寮生達と何かあったわけではないのだが、一人の時間がまったく持てないことが、彼にとっては耐えがたい苦痛だったらしい。親としては、寮での団体生活で揉まれ強くなり、さらに多くの気のおけない友を得ることを期待していた。そんな親を説得するため、彼もいろいろ考えたのだろう。寮生活におけるメリット、デメリット、そして下宿先のリストや下宿した際の行動パターン等について、レポートを作成し送ってきた。その中の一文、「高校生の一年間は、馬の一年と同じように大切なのです。」競馬好きの息子ならではのコメント、思わず笑ってしまった。その熱意⁉ にほだされたわけではないのだが、下宿に移ることを許し、寮を出て数か月たつ。
下宿では、日曜祝日は食事が出ない。その間は、近くのスーパーやコンビニで食料を調達することになる。やや偏食気味の彼のこと、ちゃんと食べているのか心配だ。いきおい、我々が行ったときには、普段小遣いでは食べられないものを食べさせ、その満足げな顔を見てホッとする。今回は、びっくりドンキーのハンバーグ、焼肉、回転寿司函太郎など。映画を観た後、下宿へむかい部屋をチェック。案の定、足の踏み場もない状態。ささっと片付けただけでもゴミ袋2つがパンパンになった。そんな部屋でも、ゲームしたさに寮生の友人たちが入り浸っている様子。いったいどこで?
レンタカーを返す前に、食料の買い出しに。一人分の冷凍総菜やら保存用ごはん等々、大量に買い込み、下宿前で車から降ろす。この頃になると、私の気持ちは沈み込む。次はいつ会えるだろう。まだまだほんずなし(この方言わかります?)な状態で手元から離れたせいか、別れるときには寂しくて寂しくて…。しかし彼は、「行ってきます!」の一言を残し、振り返ることもなく玄関の向こうに消えていった。その言葉の中に、彼なりの矜持、あるいは決意といったものを感じた私は、やはり親ばかなのか。 (文: 松浦 政彦)