ドクターヘリオットと、まつうら歯科クリニックの三人の歯科医師たち 〜第102回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜
歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
ルール1 必ず毎月、どちらかが書く
ルール2 内容は、歯科治療以外のこととする(時々ルール違反あり)
第102回 ドクターヘリオットとまつうら歯科クリニックの三人の歯科医師たち
読書好きの院長は、自宅に図書館ができるほどの本を持っています。
そのため、私は自分ではあまり本を買うことはなく、うちにある本を物色しては読むことになります。
その蔵書の中に、「ドクターヘリオットのおかしな体験」 という文庫本がありました。
ずいぶん古い本ですが、有名な本なのでご存知の方も多いかもしれません。イギリスののどかな田舎ヨークシャーで、獣医として働くヘリオット先生の日常が、ユーモラスに、そして動物たちへの愛情たっぷりに描かれています。
その中のエピソードの一つが、現在三人体制になった我々歯科医師の人間模様にとても似ていて、いまだに 思い出して「くすっ」と笑ってしまうのです。
ある日のこと。ヘリオット先生と、同僚の獣医が、馬の治療について議論しています。
「私は、この治療の時は馬の首に注射を打つ」というヘリオット先生に対し、同僚の先生は「いや、私は絶対にお尻に打つ。首に打とうなんて、考えたこともない。」議論はなかなか終わりません。
ある時、馬の往診に出かけたヘリオット先生は、ふと同僚の言葉を思い出し、なんとなく自分 のやり方に自信がなくなって、いつも首にううっている注射を、馬のお尻に打ちました。
するとそれを見ていた馬の飼い主が、不思議そうな顔をして言います。「あれ、先生はお尻に注射を打つんだね。この間来た先生の同僚の先生は、首に打っていたよ。」
書きながら、またくすっと笑ってしまいました。
他の方も(たぶん)同じだと思うのですが、医療のプロだからと言って、すべて自分の診断や治療方法に完全な自信があるわけではありません。歯科医が複数集まれば、 時には同じ症状の患者さんについてああだこうだと議論をしたり、人の治療をみて、こっちの方法の方が良い のではないかと悩んだり、もっといい方法がないものかとセミナーや勉強会に出かけたり。
患者さんを治したくない医師はいません。しかし患者さんも症状も、千差万別。
これからも、ああだこうだと悩みながら も、ドクターヘリオットのように愛情だけは忘れずに、診療を続けたいと思っております。
(MDCニュースレター 2023年2月号より:文 松浦直美)