【大人の予防歯科】カリオグラムを利用した予防歯科で、「手遅れ」の口腔内をなくそう!!
こんにちは。歯科医師の松浦直美です。
予防歯科を行っていく上で、参考になる指標の一つに唾液による虫歯リスク検査があります。
当院では、虫歯の多い方や、今まではそうでもなかったのに、急に虫歯になりやすくなった方、そして、積極的に虫歯予防をしていきたい、というご希望のある方に、唾液検査による虫歯予防プログラムを提供しています。費用は、唾液検査のキット代三千円のみ。カウンセリング代などが別途かかることはありません。
正直、赤字のこの予防プログラムを続ける理由。それは、歯科医院側が、定期メインテナンスを「やりやすくなる」からなのです。
まずは、患者さんがメインテナンスに来る理由や、その内容をとても理解してくれるようになります。歯科衛生士を信頼し、長い間通ってくださっている方の中には、この予防プログラムがきっかけになった方も少なくありません。
しかし中には、予防歯科を行うのが難しいほど、リスクの高い方もいらっしゃいます。今回は、そんな「難易度の高い」患者さんのお話です。
Contents
まずは復習。カリオグラムを利用した予防歯科とは
カリオグラムは、スウェーデンのマルメ大学の虫歯予防学の教授だったDouglas Bratthall先生が開発した虫歯リスクの評価ツールです。唾液検査の結果をひとつひとつ数値化して入れていくことで、虫歯にかかるリスクがわかるという優れもののソフト。
カリオグラムを利用した45歳看護師「綺麗さん」の予防プログラムの内容をまとめたお話はこちら↓検査とプログラムの全貌がよくわかります。
虫歯が減らずに困っていた47歳女性の1年間の予防プログラムのお話はこちら↓劇的変化がよくわかります。
62歳の女性。2年ぶりの定期検診を希望して来院
歯科は2年ぶり、という62歳の女性、みちこさん。2年前までは、歯科に通ってインプラントやブリッジなどの大がかりな治療を行っていました。しかしその後コロナ禍に入り、歯科での検診から足が遠のいていたそうです。
歯にはかぶせものや詰め物が多く、その中で多くの歯が虫歯になっていました。
「先生、私食べることが大好きだから、歯を無くしたくないの!」
一般的な検査が終わってから、唾液検査による予防プログラムを行うことをご希望されました。
みちこさんの検査結果の主な内容は下記の通り。
- 歯磨きの磨き残しが多い
- 唾液の量が少なく、ドライマウス
- 唾液の緩衝能(虫歯になりやすい酸性の口腔内を中性にもどす唾液の力)が低い
- 歯科医院でのフッ素塗布や、ご自宅での正しいフッ素入り歯磨き剤の使用ができていない
- 虫歯菌がとても多い。
- おやつやアメなどをよく食べる。その後うがいするようにしている
結果をカリオグラムに入れると、上図の通り。
細かいことは知らなくてOKですが、このグラフの中の「緑色」のところ。ココが大きくなれば、虫歯になる可能性がどんどん低くなります。そして、右側のトータルカリエスリスクを9以下にすることが、大きな目標。
みちこさんの「緑色」はなんと4%。多くの方が受けている予防唾液検査ですが、ダントツに低いことがわかります。
この方のもっとも難しい点は、唾液量の少なさと、緩衝能の低さ。
これがあると、虫歯予防は急激に難易度が増します。口が乾くので、しょっちゅうアメを舐めてしまう、という悪循環も。
とはいえ、食べるのが大好きだというみちこさんに、必要以上に食事やおやつの制限をするのは可哀想です。まずはできるところから、始めてみます。
<みちこさんの予防プログラム>
*被せ物の下で虫歯になっている歯の治療を全て終わらせます。これで、「ラクトバチラス」という虫歯菌が大幅に減ることを期待。
*1450ppmのフッ素歯磨き剤を2センチたっぷり使ってもらい、まずは朝起きた時と就寝時使用。
*歯科医院で高濃度フッ素を塗布。
*歯磨き指導。歯と被せ物の境目を磨けるように練習。
*アメだけは禁止。口の渇きが気になるときは水分を少しずつ取ったり、100%キシリトールガムやタブレットを食べる。
*食事内容の制限は全くなし。できれば甘いものはデザートとして食後に。その他、間食は1日2回まで何を食べてもOK。
これで、「緑色」の部分はなんとか28%まで増加します。はじめの4%からは、大きな変化です。
しかし、まだまだ虫歯予防ができているレベルではありません。
予防プログラムの限界と挑戦
歯磨き指導になれていただいたら、もう少し歯磨きを上達するべく指導していきます。
汚れが少なくなり、もう一つの虫歯菌が減っていくと、どうなるでしょう?
緑色の部分がだいぶ増えました。この状態まで持ってくれれば、短い頻度の定期メインテナンスで虫歯の発生をおさせることは可能です。
しかし、これは本人の歯磨きの上達を期待した「希望的観測」。63歳という年齢を見ても、前回ご紹介した47歳の女性のような「劇的な上達」はあまり期待できません。何よりも、なかなか変えることができない「唾液量」と「緩衝能」の問題があります。
さあ、この難易度の高い方のお口の中を守ることは、できるでしょうか??
患者さんを信じて、予防プログラムと、ドライマウスへの対策を続けるのみ。
若い頃から虫歯で歯の治療を繰り返し、63歳の時点ではほとんどの歯に被せ物や詰め物、そして失った部分にはインプラントが入っているみちこさん。そして今なお、活動性の虫歯が多くあります。これから歯を守るための予防は、少し努力が必要。
まずは極端な食事や甘いものの制限はしない、という上記の予防プログラムを始めて、様子を見ます。
続けられるようにであれば少しずつ、ドライマウス対策として「やること」を増やして行きます。
口が乾いてよく食べていたあめやキャラメルをキシリトールガムに変えていますが、これをさらに15分ほどかけて、よく噛んでもらうようにします。シェーグレン症候群などの特殊な病気がなければ、これだけで唾液が増えることがあると言われています。
また、唾液腺マッサージなど、唾液を少しでも増やす簡単な習慣を取り入れてもらうようお話します。
さらに、通常は朝起きた時と寝る前の歯磨きで十分なのですが、これを3食の食事の後の歯磨きに変えてもらい、フッ化物の入った洗口剤を間食の後、寝る前などに使用してもらいます。
まとめ
今までの虫歯治療の経験がとても多いこと、唾液の量や質の問題、そして甘いものが好きで、アメをしょっちゅう食べている。多くの問題があるみちこさんですが、今からの積極的な予防が、どのくらい功を奏するかは、ご本人次第。歯科医院は、その伴走をするだけです。
明るくて食べることの大好きなみちこさんが、これ以上虫歯になることなく、これからの数十年を過ごして行けますように。ぜひとも、見守っていきたいと思います。