【大人の予防歯科】これから予防歯科を始める大人の方へ。唾液検査を活用してみよう。
こんにちは。歯科医師の松浦直美です。
予防歯科という言葉は、今ではよく聞かれるようになりました。
そうは言っても、歯科医療者の間でさえも、じゃあ予防歯科ってどのようなことをやるの?と聞かれると曖昧な方がまだまだ多いと思います。
予防歯科が一番力を発揮するのはやはり子供の頃からのメインテナンスです。20歳を虫歯ゼロ、歯肉炎ゼロ、さらには綺麗な歯並びで迎えられたら、おそらく生涯歯で苦労することはないでしょう。
しかし、大人になってから始めたからといって、予防歯科が意味がないわけではありません。残念ながらやや手遅れ、の方もおりますが、40代くらいから始められれば、多くの方が予防歯科の恩恵を受けられるはずです。
Contents
アメリカで始まった「Dental Home:デンタルホーム」の考え方
2006年にアメリカの小児歯科学会が提唱した「デンタルホーム」という考え方は、これからの予防歯科の基本の基本となる概念です。
要約すると、生後12ヶ月までの間に、かかりつけの歯科医をもち、総合的で継続的なケアを始めることで、生涯の口腔内の健康を保ちましょう、という内容です(デンタルホームの確立)。この「デンタルホーム」が確立されているかいないかによって、お子さんの予防処置の内容が変わってきます。デンタルホームが確立されていれば、予防処置も最小限でよい場合が多いのです。
成人になってからも、この考え方を適用することができます。いままでかかりつけの歯科がなく、定期的にメインテナンスをする習慣がない方は、まずは定期的なメインテナンスを始めるところからがスタートです。
しかし、すぐに定期メインテナンスに入れる方は少数です。
歯科を受診した段階で、虫歯や歯周病などの問題があれば、もちろん治療が必要です。さらに、すでにたくさんの歯が修復(治療)されている場合は「虫歯」のリスクが高い方、ということになりますので、今後も虫歯のリスクがどのくらいあるのかを確かめてから定期メインテナンスに入るのが理想的なのです。
虫歯になるリスクとは
リスクとは、現在治療が必要な虫歯がなくても、将来虫歯になる可能性の事。
リスクが低い方であれば、定期メインテナンスの頻度を減らせますし、予防処置の内容も軽いものになります。
ヨーロッパでは、このリスクに合わせて定期検診の間隔や、予防検査のためのレントゲン撮影の頻度などを決めている国も多いです。患者さんにとってもわかりやすいですし、無駄な国の予算を使うことがないようにという理由もあるのではないかと思います。
定期メインテナンスが保険適用になった日本でも、今後は予算削減のため、このようなシステムが取り入れられるようになるかもしれません。しかし、まだまだメインテナンスに通う方が大多数、とは言えない現状では、現実的ではないのかもしれません。
日本では現在、最短で1ヶ月ごとの予防通院(定期メインテナンス)が保険で認められていますので、多くの方にその恩恵を受けてほしいと思います。そしてできれば、その「間隔」や「内容」が、個々のリスクにあったものであれば、患者さんのご心配や、時間や費用の負担も減るのではないかと思います。
歯科の病気には、主に「虫歯」と「歯周病」がありますが、「虫歯」に限って言えば、リスクを測る方法として優れた方法に「唾液検査」があります。当院では、ご希望の方には唾液検査をして、その後の定期メインテナンスの計画の参考にしています。
唾液を見ればリスクがわかる?
唾液検査の概要は以前もまとめています。定期メインテナンスに唾液検査を取り入れる例をご紹介しています(↓)
唾液検査で調べられる項目は以下の通りです。
- 唾液の量
透明なワックス(ガム)をかんで、唾液がどのくらい出るのかを調べます。ドライマウスなどがわかることもあります。 - 唾液の質
食べ物の糖分を細菌が代謝して、一気に酸性になったお口の中を、唾液が中性に戻していくことで、歯は虫歯から守られています。唾液にしっかりと中性に戻す力(緩衝能)があるかを調べます。 - 虫歯菌の数
虫歯を起こす菌(ミュータンス菌)が多くいるのかを調べます。 - 虫歯を広げる菌の数
虫歯の穴に生着して深く進行させていく菌(ラクトバチラス菌)の数を調べます。この菌は、古い詰め物のフチなどにも多く生息します。 - 食事の回数
水以外の飲食物をとった回数を調べます。3日ほど、食事の記録をとっていただきます。 - プラークの量
歯についている歯垢の量をパーセントで記録します。 - フッ素の使用状況
歯科医院でのメインテナンでフッ素を使用しているか、また、ご自宅でフッ素入り歯磨き剤を使用しているかをお聞きします。
以上の検査結果に基づいて、スウェーデンで開発された「カリオグラム」というソフトに数値を入れて、リスクを点数(トータルスコア)で表します。この数値に基づいて個々の予防のポイントをお知らせして実践し、トータルスコアを9以下に抑える事で、将来の虫歯のリスクを大きく減らすことができます。
唾液検査は、「デンタルホーム」への一つの入り口
唾液検査といえば、虫歯菌がいるのかをチェックするをする事で、今後虫歯になるリスクが高いのか、低いのかがわかります。それ以外にも、歯科医院側はその患者さんに対する多くの情報を得ることができるので、以下の方にはできるだけ唾液検査を受けていただくようお願いしています。(当院では、使い捨ての材料の費用として3000円の費用で行っています)
- 初診の方で、今まで定期メインテナンスを受けていない方
- 妊婦さんや、小さなお子様やお孫さんがいる方
- 1回目の唾液検査で、トータルスコアが危険な数値だった方
- メインテナンスを継続していても、虫歯になってしまう方
- ドライマウスのケアが必要な方
もちろん、これは強制ではありませんし、臨床的にみて明らかにリスクの低い方であれば、お声がけしないことも多々あります。
しかし、上記に当てはまる方、特に「妊活」「孫活」中の方には、大切なご家族を守るためにも、ぜひ一度、唾液検査を行ってみていただきたいと思います。
まとめ
予防歯科を一言で定義づけるのは難しいのですが、あえて言えば、信頼できる歯科医院に伴走してもらうこと、ということかもしれません。
本日は、虫歯のリスクを調べるための「唾液検査」をご紹介しましたが、これは予防歯科の積極的なツールの一つにすぎません。しかし、上述の「積極的に予防を考えて欲しい」カテゴリーにいる方には、やはり利用して欲しいものでもあります。
次回は、もう少し掘り下げて、唾液検査を利用したリスクの見極めと、「予防プログラム」の実際をお話します。