デンタルフォトグラフィー(口腔内写真)とカメラの選択
2021年1月にKings College London のオンライン審美歯科コース(MSc in Aesthetic Dentistry) のカリキュラムが始まってもうすぐ1年。初めの頃、最初にぶち当たった壁「デンタルフォトグラフィー」と、その後のカメラ購入騒動について、まとめてみます。
1月、オンラインのカリキュラムで渡される課題論文をひたすらコピーして読むことから始まり、録画された講義やオンラインのチュートリアルが月に1〜2度程度。その後4月15日提出の第一回目の6つの課題提出、7月の第2回目の3つの課題提出。その間に、実際の自分の臨床症例を提出するための「クリニカルフォトグラフィー」のオンライン受講、そして実際の口腔内写真を撮影する準備が必要になりました。
私の歯科医院では初診時、診療終了後、そしてメインテナンス時に定期的に撮影しています。。。。。しかしそれを行うのは、歯科衛生士や、審美治療の技工を担当してくれた技工士さん。(!!)
そう、偉そうなこと言っても、自分では口腔内写真を撮影したことがなく、スタッフ任せだったのです!!
大学院の課題提出に向けて、カメラの知識、設定の仕方、そして美しい写真の撮り方を、1から(いやむしろゼロから、いや、マイナスかも)勉強することになりました(汗汗)。
Contents
デンタルフォトグラフィー(口腔内写真)って、何?
歯科医院に行ったとき、カメラで口の中の写真を撮られたことはありませんか?いやだな、と思った方もいるかもしれませんが、きちんと説明を受けていれば、気にならなくなったことかと思います。
すべての歯科医院で行われているわけではないかと思いますが、口腔内写真は治療前後の記録として、または定期検診に入ってからも定期的に撮影して記録を残しておくことで、本当にいろいろな情報を知ることができるため、歯科医療従事者としては必ず習得するべき技術なんです。口腔内写真を撮るときには、患者さんに説明し、さらにその写真を歯科医療従事者向けの勉強会や学会、さらにはこちらのブログの様な場所で使わせていただく場合は、あらためて同意を得ることは言うまでもありません。
口腔内写真の目的は多々ありますが、ちょっとあげるだけでもとにかくたくさん。
- 初診時(治療前)の記録
- 治療計画の説明、相談
- 治療経過の記録
- 治療後の記録
- 経過を見ている口腔粘膜の変化の記録
などなど。初診時に、または定期検診の時などに、毎回でなくともしっかりと口腔内写真を撮影している歯科医院は、大切なご自分のお口の健康を預けるかかりつけ医院として安心していただいていいでしょう。
口腔内写真用のカメラは必要なのか?
カメラそのもの(ボディ)で言えば、一般市場に出回っている中で、口腔内写真専用のカメラというものは特にありません。早い話、発売されている一眼レフ、一眼レフミラーレス、さらには1万円くらいで売っているデジカメでもOK。なんでもいけます。
しかし、患者さんの口腔内の状態を誰が見てもわかりやすく、美しく写したり、症例の整理や学会などでの発表ににはやはり一眼レフカメラは必要。そして、暗くて小さな口腔内を鮮やかに再現するために必ず必要になるのが、「マクロレンズ」と「リングフラッシュ」または「ツインフラッシュ」です。医院にこのセットはありますが、審美歯科を学ぶものにカメラは必須だし、来年のスクーリングに持っていく必要もあり、自分専用のカメラを購入することになりました。
大学のコースが推奨しているカメラボディはすべてキャノンまたはニコンの一眼レフ。日本人であることに優越感♪
しかし、これがまた驚くほど種類が多く、一体どれを選んだらよいのやら。
カメラの知識がある方であれば、キャノン、ニコンに限らず、自分でどのメーカーのボディ、レンズなどでも揃えることが可能ですが、知識ゼロの私はまず下の4名の「口腔内写真の神様たち」の意見を参考に、候補を絞っていきます。
①Kings College London デンタルフォトグラフィーのチューターのおすすめ
なぜか、Canonのカメラボディは呼び名が「日本」「北米」「欧州」で違うため、注意。
ボディ
Canon 800D(日本名Canon Eos Kiss X9i)
Canon 2000D(日本名Canon Eos X90)
Canon 250D(日本名Canon Eos Kiss X10)
Nikon 5600
レンズ
Canon 100mmマクロレンズ(EF100mm F2.8LマクロIS USなど)
Sigma 105mmマクロレンズNikon用
フラッシュ
CanonまたはNissinのリングフラッシュ
②ロンドンで大人気のデンタルフォトセミナーを主催するMinesh Patel氏のおすすめ
インスタでも大活躍のロンドンの歯科医師Minesh Patel氏は、数年前にKings College Londonの審美歯科コースを卒業しており、今やチューターも一目置く審美歯科界のレジェンド。審美歯科医としての腕前もさることながら、そのアーティスティックな写真のセンスは秀悦で、初めてインスタグラムの写真を見たときにはすぐに恋に落ちてしまいました。インスタグラムはこちら。
最近の投稿の一つを紹介します。歯の写真、なんだけど。。。なんだか、前衛的なアートに見えませんか?
そして、これがすごく丁寧な技術のもと行われていることは、歯科医師ならすぐにわかると思います。
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Mineshはデンタルフォトグラフィーのセミナーも主催しており、COVID19が猛威を振るう前は、本当になかなか予約の取れない大人気セミナーでした。今は、世界中の人たちが独学でも勉強できる様なテキストを開発し、販売していますし、セミナーも近々再開する予定の様です。
興味のある方はF:OCUSをのぞいてみてくださいね。
たくさんのカメラを検証してきたMineshが現在勧めているのは下記のカメラとレンズ。
初心者、および軽くて比較的安価なカメラを希望する方
ボディ
Canon 200D(日本名Eos Kiss 9),800D(日本名Eos Kiss 9i)
Canon 77D, 850D(日本名Eos 9000D, Eos Kiss 10i)
Canon 90D
NionD5600
レンズ
Canon60mmマクロレンズ
Nikon85mmマクロレンズ
上級者向け。重くて費用も高い。
ボディ
Canon 6D MarkⅡ
Nikon D750
レンズ
Tamron90mmマクロレンズ(推奨)
Canon 100mmマクロレンズ
Nikon105mmマクロレンズ
*フラッシュは、初心者、上級者ともリングフラッシュではなく、ツインフラッシュのみで撮影する方法を推奨している。
③ベストセラー「口腔内規格写真の撮り方」高田先生のおすすめ
直接お会いしたことはないのですが、精度の高い治療を提供し、口腔内写真にも精通して精力的に活動されている高田先生が、今年初頭に出した「口腔内規格写真の撮り方」は、歯科医療従事者の間でとても話題になり、私も購入させていただきました。
カメラやレンズの話から、実際の写真の撮り方、患者さんや術者の体勢にまで言及したわかりやすい本は、とても参考になります。
④中古の良品の選択肢を与えてくれる、初心者の味方ユーチューバーマツシマ先生
ご自身で口腔内カメラ用にセッティングした中古のカメラを、全部揃えても10万円以内(!!)に抑えて販売しているマツシマ先生のサイトNostalgista。どれを買ったらいいのかわけがわからなくなっていたときに、このサイトを見つけた時は晴天の霹靂でした。
京都でカメラサークルを主催している先生は、本当にカメラを愛しており、たくさんのメーカーのカメラやレンズを所有する根っからのフォトグラファー。
しかし、口腔内写真という「規格性」と「客観性」を大事にすることが最も大切とされる場面では、質の良い中古のカメラとレンズ、そして純正でないリングフラッシュを組み合わせたもので必要十分、という考え方です。特に、安月給で(?)勉強中の勤務歯科医でも買える値段で、というコンセプトが、愛に溢れていて素敵でした。
ボディ
Nikon 7000、7100、D610
NikonD5500
レンズ
Tamron90mmマクロレンズ
Tamron 60mm f2.8 macro
写真を知り尽くしたマツシマ先生の口腔内写真に対するお考えに触れることができたのはとても参考になり、まだまだカメラのことを知らない自分は、中古のカメラで十分ではないかと言う考えに至りました。
⑤お金はかかってええ!アフターも万全の業者様に丸投げ
開業した当初(2008年)は、全くカメラのことがわからなかったものの、口腔内写真を写すことだけは必須だと考えていたので、開業資金の中にカメラも含めて、「ソニックテクノ」の口腔内写真用カメラを購入。現在で使っているのは2代目で、Canon Eos Kiss9i。口腔内写真用のマクロレンズとリングフラッシュが全てセットされていて、何か不具合があると代品とともに修理してくれる万全サポート。しかし、フラッシュのバッテリーがカメラの下についている仕様のためかさばり、持ち運びにはあまり向かない。当院の衛生士にも不人気で、下記に紹介する軽くて手軽なアイスペシャルの方が人気なのは、仕方がないかなと言うところ。
驚くほど高いけど、間違いのない業者丸投げは、下記サイトから。
ソニックテクノ
サンフォート
また、松風が出しているアイスペシャルも、軽くて使いやすいため、おすすめです。口腔内規格写真を誰でも簡単に撮れる、と言うコンセプトです。審美歯科症例の一眼レフでの写真撮影が上達したら、アイスペシャルの写真と比べてみたいなと思っています。
私が選んだ自分用のカメラは
上記の4名の神様には、直接連絡させていただいてアドバイスいただきました。どの先生も親身に教えてくださり、本当に感謝しています。
悩みに悩んで、私が選んだのは
ボディCanon Eos 9000D(中古)
レンズCanon60mmマクロレンズ
フラッシュCanon MR-14EX 2」
上記に至った理由は、
①ボディもレンズも、上位機種よりずっと軽い
②9000Dは2014年に鳴り物入りで発売され、エントリー機種の中でも秀悦な機能が多いにも関わらず、良質な中古が出回っているため安く購入できる
③審美歯科医として尊敬するMinesh Patel氏が初心者向けの良いカメラとして現在でも紹介しており、購入した彼のテキストでも多用されていたため。
みなさんも、自分に合った、ずっと使用できる良いカメラに出会っていただける様、願っております。
まとめ
口腔内写真は、診療と同時に予防歯科の考えを導入して一人一人の患者さんにしっかり寄り添っていくこれからの歯科医院には、必要不可欠なものです。しかし、客観的でわかりやすい写真が撮れるのであれば、カメラやレンズにあまりこだわる必要はなく、適切なカメラのセッティングと、患者さんが快適な状態で撮影する技術を磨くことが優先されます。審美症例などをアートのように撮りたければ、カメラの上限は際限がないでしょう。
今回、大学の課題というきっかけから口腔内写真用カメラを調べてみて、本来の目的を強く再認識しました。すべては、患者さんを守っていく予防歯科の原点としてのわかりやすい「記録」。そして、その先に、自分の技術をあらためて確認したり、審美歯科医としてのポートフォーリオとしての更なる美しさを追求する写真があるのでしょう。職場とは別に、自分のカメラを手に入れたことをきっかけに、1から写真に向き合っていこうと思います。