第74回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜この夏のひとこま

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、歯科医院を共に営む夫(真面目なのでここではマジオ君)とともに、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年から書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 必ず毎月、どちらかが書く。
2 内容は、歯科治療以外の事とする。

第74回 この夏のひとこま

 私の実家は八幡平市(旧西根町)にある。車で1時間もかからないが、帰るのは盆正月の各1日位。青森で小学校教諭をしている妹家族も合流し過ごす時間を、両親も楽しみにしているに違いない。しかし今年は、上からの通達で県外に出るのに届け出が必要とのことで、妹らは帰省を断念した。(写真は八幡平市 七時雨山(ななしぐれやま):岩手県観光ポータルサイトより)
 
妹からの提案で、夕食時スマートフォンのLINEを利用し八幡平市と青森をつなぐことにした。両親の携帯はいわゆるガラケーで、メールも使用せず、およそデジタルとは縁遠い生活をしている。サプライズで私のスマートフォンを両親に手渡すと、小さな画面に映る娘や孫の姿に目を細め、嬉しそうに話していた。
 東京で仕事をしている私の長女とは話しをすることも出来なかった父が、「会いたいな~」と呟く。長女は、生まれてすぐに、妻とともに私の実家でしばらく過ごした。そのせいか、幼少時には迎えに来てもらって、一人で実家に泊まりがけで遊びに行くことも多かった。長女は遊びに行くと、新聞紙を広げてお気に入りの絵を描くのが好きだったこと、そして、その絵の具はまだ居間の棚にぶら下げてあることを、母が懐かしそうに話してくれた。家でのお絵描きはクレヨンか色鉛筆で、絵の具を使った記憶はない。実家に行った際だけの、ひそかな楽しみだったのかもしれない。
 
後日、この一件を長女にLINEで伝えたところ、「あぁ~、ドレミちゃんの袋に入ってるやつだね…。」と返事が。長女にも、幼き日の温かな思い出として、しっかりと記憶されていたことが嬉しかった。改めて、子供らを慈しみ、育てることに協力を惜しまなかった全ての人に感謝、感謝。
 9月になり、「休みがとれた」と急に帰省した長女。実家の両親にも再会し、つかの間ではあったが、和やかな、優しい時間を過ごして戻っていった。(文 まじお)

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