思い出すということ 〜第38回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、2010年から歯科医院を営む夫婦が、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年より院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 かならず毎月、どちらかが書く
2 内容は、歯科治療以外のこととする

第38回 思い出すということ

「一生懸命に思いだすのが将棋のいいところだ。」

将棋界の第一人者である羽生善治さんはインタビューにそう語ったそうだ。

過去に似たような形があったか。その時どんな手を選んで、どんな展開になったか。対局中棋士は、半分は先を読み、半分は無数の棋譜を懸命に思いだいしているのだという。

そこまでシビアではないが、我々にとっても、事を円滑に進める上で「思い出すこと」は大切だ。だが最近、思い出そうとするのだが、どうしても思い出せないということがままあり悲しくなる。寄る年波に逆らうことは出来ず、あらかじめ余裕をもって思い出す作業をするしかないといましめた。

一方、「思い出すこと」は楽しいものでもある。

なかには消し去りたい思い出もあるかもしれないが、その頃どんなことがあり、どんな思いで過ごしてきたか、改めて振り返ると懐かしくやさしい気持ちになる。

私はソーシャル・ネットワーキング・サービスのフェイスブックを利用しているが、「過去の思い出を振り返ってみよう」という機能が気にいってる。過去のその日に投稿した内容を見ることが出来る。

子供の成長を確認し懐かしんだり、毎年同時期に同じようなことをやっていて苦笑したり…。

先日セミナー参加のため上京した折、大学に入学し一人暮らしを始めた長男と晩御飯を食べた。盛岡冷麺が食べられる水道橋の焼き肉店を選んだのだが、偶然にも1年前の同じ日に娘と同じ店で食事をしていたことが、その機能で知らされた。

離れて暮らしていると、ちゃんと食べているのかが気になる。そして、一緒のときは何か美味い物でも…と考える。これはもう、親の本能というべきか。

水道橋について駅のトイレに入ったところ、つい30分前まで一緒のセミナーに参加していた大阪のH先生に声をかけられた。

彼の息子さんも今年大学に入学し上京したのだった。「先生も息子さんと晩御飯?」、「考えることは同じですね(笑)」。

古今東西問わず、思い出すまでもなく身についた悲しい親のさがを感じ、お互い笑って待ち合わせ場所に急いだ。  (松浦 政彦)

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