第35回 歯科医師夫婦のつれづれ手帖〜原書でシェークスピアを読む豆腐屋さん

歯科医師夫婦のつれづれ手帖は、歯科医院を共に営む夫(真面目なのでここではマジオ君)とともに、医院を訪れる患者さんに自分たちの人となりを知ってもらいたいという気持ちから、2014年から院内新聞の一角に書き始めた小さな文章。
なんだかんだで続いています。
ルールは2つだけ。
1 必ず毎月、どちらかが書く。
2 内容は、歯科治療以外の事とする。

第35回 原書でシェークスピアを読む豆腐屋さん

「豆腐が、生き方を教えてくれた。」 これは豆腐職人、山下健さんの言葉である。なんと哲学的な言葉だろう。私の好きな番組、NHKの「プロフェッショナル~仕事の流儀~」で紹介されていた。この豆腐屋のおじさんの口から出てくる言葉は、どれもこれもが深くて、私は画面に引き込まれてしまった。

創業100年を超える小さな豆腐店の5代目で、幼い頃から豆腐作りを手伝わされた。冷水を使ったハードな仕事が嫌いな上に、割に合わない時代遅れな稼業だと思っていた。継ぎたくない一心で必死に勉強し、早稲田大学政治経済学部に入学、大企業の内定も得た。だが、老舗を絶やしてしまうことをためらい、家業を継いだ。しかし、機械的に豆腐を作る単調な毎日。いきいきした人生を送れてるとは思っていなかった。そんなある日、「昔の豆腐は、豆の味がした。」という老婆の言葉を聞き、昔ながらのにがりを使用した豆腐作りをしてみた。出来た豆腐はドロドロだったが、その味に無限の可能性を感じ、試作にのめり込んでいったそうだ。

「単純だから、難しい。」 豆を煮て豆乳を搾り、にがりを加えて固める工程はシンプルだが、豆の状態や気温などによって、最適な製法は毎回変わる。その難しさこそが面白いと感じるようになり、嫌いだった豆腐作りが生きがいになった。味の多様性を求めて、今ではほとんど栽培されていないような豆まで取り寄せ、自ら栽培まで行っているとのこと。

趣味は読書。シェークスピアや哲学書を原書で読んでしまう。さすが早稲田の政経卒!?何気なく話される言葉が含蓄に富んだものであるのは、読書から得られる深い教養によるものなのか…。いずれ、探究心旺盛な方なのだろう。「わかったと思ったら、また他のわからないことが出てくるから、それが出来る人がプロフェッショナルか。目標を達して、次の目標をちゃんと持てる人だな。」 番組しめの言葉を聞き、涙が出てきた…。

この春、当院には二名の新人衛生士が仲間入りした。今はまだ仕事を覚えるのに精いっぱいだと思うが、仕事に誇りと生きがいを感じてもらえる様、歯科医療の楽しさ、奥深さを見せて指導し、一緒に成長していきたい。(文:マジオ)

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